100年前に制定された日本の民法の中には、禁治産・準禁治産宣告という後見制度がありました。この制度は、@家の財産保護を中心とした家制度に密着した制度、A宣告を受けると戸籍に記載される、B後見人(戸主がなることが多かった)の権限濫用に対するセイフティガードが不十分、C名称が差別的、D宣告を受けると資格が制限される(選挙権剥奪、公務員になれないなど)などの問題があり、現在の日本には適応しないものです。ところが日本は世界一の高齢社会になり、多くの人が後見制度を利用する必要がでてきました。そこで2000年4月に作られた新しい制度が「成年後見制度」です。

この制度は、三つの新しい理念に基づいて制度化されました。その一つは、例えば痴呆になっても特別視しないで社会の一員として活動できるようにする考え方「ノーマライゼーションの確立」、次に残存能力の活用により、自己に関わることは出来るだけ自分で決めることを尊重する「自己決定権の尊重」、そして三つ目は成年後見人は後見する人の意思を尊重して心身の状態および生活の状況に十分配慮しなければならないという「身上看護の重視」です。また、この制度の大きな特徴は「任意後見制度の導入」です。
成年後見制度の利用は、この2年間に20,000件、任意後見は2,000件。日本としてはかなり多い利用ではないかと思いますが、今後はさらに利用を促進させなくてはなりません。
ここで、1992年に成年後見制度(成年者世話法)をスタートしたドイツの制度を紹介し、日本の参考にしたいと思います。

 ドイツの成年後見制度(当日上映のVIDEOから)

成年者世話法は、一人暮らしのお年寄りや知的障害者など、自分では財産管理ができない人たちの財産の不正使用の防止や人権擁護を目的として成立しました。これによって行政が世話人(日本でいう後見人)を派遣し、それぞれの症状に応じた財産管理や身の回りの世話をするのです。
この成年者世話法は、「世話人」と三つの組織、「世話人支援センター」、「世話人協会」、「後見裁判所」によって運用されています。

「世話人」になるには、ソーシャルワーカーとしての経験や福祉の学習経験などがあること、そして州の認可が必要です。ただし肉親の場合は裁判官が認可すれば世話人になることができます。世話人は、例えば、薬の投与や食事内容などが適切かどうかを確認したり、日常のお金の動きなどをチェックします。従って、世話人はある程度の医学知識や経済感覚が必要となります。実際の介護は世話人はせず、ホームヘルパーが担当します。

「世話人支援センター」は本人や家族、及び関係者から本人の財産管理、人権擁護などの相談を受け、世話人の派遣を裁判所に要請します。また、本人の症状や性格などを世話人に詳しく伝え、世話人の活動を支援します。このセンターは行政の一部門ですが、他の部門からは独立しており、後見裁判所が本人の不利となる決定をしたような場合は、後見裁判所に対し異議申し立ての権限を持ちます。

「後見裁判所」は、本人の症状を調査し、最適な世話人を選ぶという重要な役割を担い、日本の家庭裁判所のような存在です。未成年者や痴呆症のお年寄り、そして知的障害者など、後見を必要とする人たちに関わる案件だけを扱い、年間およそ千件の案件を処理しています。世話人を選任する場合、世話人を必要とする人が生活している場所に行き、面会し、その置かれている状況を調査することが義務付けられています。本当に世話人が必要な状況なのか、本人の生活環境はどうなのかなど、裁判官の詳細な調査に基づいて、最も適した世話人が選任されます。

「世話人協会」の仕事は、ボランティアの世話人への供給、つまり、ボランティアを募集し研修を行うことです。この協会の働きによって、ドイツにおけるこの制度の利用者の三分の一を支えるボランティアが誕生するのです。
このようにドイツでは、世話人、世話人支援センター、後見裁判所、世話人協会が有機的に機能しあって、社会的弱者を支えているのです。

  1. 後見人の職務について
    後見人は介護をしない、これは重要な点です。後見人の役割はその人の生活を支えていくことで、財産管理はごく一部です。本人に代わり、特に福祉の面での決定が必要ですので、私は「福祉の司令塔」と呼びます。なおドイツでは、後見人の職務の中に医療に関する要素が含まれます。生命に危険があるような医療処置等については裁判所が決定しますが、日常的な医療行為については後見人が判断できることになっており、合理的です。日本では全くできません。
  2. 自己決定(任意後見の利用)
    ドイツの制度は法定後見ですが、利用者が多く、これ以上の財政負担の増加を抑えるために、1999年に法律を改正し、任意後見制度への転換を図り、宣伝・普及に努めています。しかし、ドイツではまだ任意後見の利用は日本に比べ少ない。その点、法定後見と任意後見を同時にスタートしたことは、日本のいい点だと思いますが、ドイツが任意後見を導入し、普及に力を入れている点に注目したいと思います。
  3. 組織面の整備(世話人協会の役割)
    これに関しては、日本は徹底的に立ち遅れています。ドイツでは、裁判所・支援センター・世話人協会が三位一体となり機能しています。ドイツは、人口8,200万人のうち約2,500万人が何らかのボランティア活動に関わっている、ボランティア大国です。当然成年後見の分野にも参入しており、ボランティアが参加するための組織が世話人協会です。世話人協会は、日本でいう中学校区に一つの割合で存在しますが、日本ではこれにあたる組織が欠けています。しかし、欠けている事をただ嘆くのではなく、これから作っていくことが大切です。
  4. ボランティアとしての意識、姿勢
    世話人には社会福祉の勉強の経験がなくても、研修を受ければなることができます。ドイツの百万人の利用者の少なくとも三分の一はボランティアが支えている、この点が重要です。我々は成年後見制度のユーザーとしてだけでなく、自ら成年後見人になること、そして、行政もボランティア世話人の育成に意を用いることが大事です。後見制度を作っただけでは機能しません。特にボランティアがこの制度を支えることが最も大切であると思います。

ユーザーとしての利用を考えると同時に、自ら成年後見に関わっていく姿勢を持つ事が重要で、この際、ボランティア養成を行うなど、高連協の役割は大きいと思います。弁護士や司法書士、社会福祉士にこの分野に多く参加してもらいたいと思いますが、それでも数が足りません。
総人口が減少し、ますます高齢化が進み、後見制度を必要とする人の数が将来、300万〜400万人になる状況が予想されている日本では、お互いが支えあうことが大変大切になってきます。ボランティアの組織を生かして、成年後見制度がうまく機能するようにすることが大変重要です。
介護と同様に、今まで家族の中で行なわれてきた後見を社会全体で担う「後見の社会化」の発想が、成年後見法の根底にあると思います。その時、大切なのはボランティアなのです。