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2023.03.26 更新

後見人が家庭裁判所に提出する業務レポートの最後は、「本人の財産から,本人以外の人、例えば、本人の配偶者,親族,後見人自身の利益となるような支出をしたことがあるか」についてです。これに、ある、あるいは、ないと答えますが、この部分は、親族が後見人になる場合、もっとも問題になる項目なので少し詳しく解説します。


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例1として、被後見人となった高齢者の孫が念願の大学に合格しました。その話を聞いた被後見人は喜び、「お祝いとして30万円渡してほしい」と後見人である息子に言いました。それ受け後見人は、被後見人の口座から30万円を下ろし、封筒に入れ、被後見人に渡し、孫は被後見人からお祝いを受け取りました。

このやり取りについて皆様はどう思うでしょうか?被後見人にそれなりのお金があったとしても、家庭裁判所は、このような行為を嫌います。場合によっては、「孫からお金を回収しなさい。そうしないと権利の乱用、不適切な支出として後見人を解任することも検討します」と口頭で通知してくる場合が多いでしょう。事前に聞いても、ほとんどの場合ダメと言われるでしょう。

例2として、被後見人が車いすを使っているとします。病院やその他への外出のため、家族が普段乗る自動車とは別に、車いすが載る、おもに被後見人用の福祉車両を被後見人の預貯金で買ったとします。

この際、車の名義を被後見人にすれば家庭裁判所はさほど文句を言ってこないでしょうが、後見人である子どもの名義にしようものなら、「後見人である、あなたの利益になる」とか「利益相反の行為である」とか「業務上横領といわれても仕方のない行為」などと言ってくるでしょう。

例3として、後見人である息子が商売をしていて、資金繰りが苦しくなり、被後見人である親の了解を得て、200万円を親の口座から下ろし、自分の会社の運転資金に充てました。被後見人の意向を伝えても、家庭裁判所は良しとせず、その親族後見人は家庭裁判所の職権で解任されてしまいました。
そして、後見人を首になるだけなく、家庭裁判所の職権で、見ず知らずの弁護士が後見人に選任され、元後見人である息子に対し、「200万円を、利息をつけて返せ。返さなければ不当利得返還請求訴訟を起こす」といってきました。当のお母さんは「なんでそんなことをするのかね」と首をかしげています。

このような場合、家庭裁判所や新たな後見人は、元後見人である息子を、さらに業務上横領という刑事事件で訴えてくることもあります。

例4として、300円のケーキでさえ、うるさく言われた後見人もいます。
被後見人である夫は甘いものが好きだったので、後見人である妻は夫用にチョコレートケーキを、自分用にショートケーキを買いました。その領収書を、同じく夫の後見人をしている司法書士に見せたところ、「奥様が食べたショートケーキ代はご主人の財産からは払えない」と突き返されたのです。それを聞いた夫は立腹し、「そんな後見人はいらん」と怒っていました。

以上、30万円の入学祝い、車いす専用の福祉車両、200万円の借り入れ、300円のショートケーキの事例をあげましたが、この現実をどう思いますか?