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2023.03.24 更新

ここ数年、「遺言を書いておきましょう」という、ちょっとしたブームがあるように感じます。全国286カ所の法務局で、遺言を保管してくれるサービスも新たに誕生しています。遺産を巡るトラブルもあるので遺言を作っておくのも一つの方法と思いますが、遺言があることによって揉めるケースもあり、何が良いのか正直解りません。

遺言の種類は大きく分けて二種類で、自分で書く「自筆証書遺言」と、公証人に内容を告げ公証人が書く「公正証書遺言」があります。いずれにせよ、「いつ、だれが、誰に、何をあげる」といったことが、誰がみても明確にわからないと、法的に効力のある遺言にはなりません。

成年後見制度を使ってからでも、ある程度の能力があれば、遺言を書くことは可能とされています。具体的には、被後見人となった人が遺言を書く場合、医師2名の立ち合いが必要となります。2名の医師が、「認知症かつ被後見人ではあるけれど、この遺言の内容に関する本人の意思は合理的である」というようなことを添えて書くことで、その遺言は有効なものとして扱われます。面倒ですが、こうすることで遺言を書く権利を、成年後見制度を使っている人にも保証しようという考えがあります。

逆に、このようなこともありました。すでに判断能力が十分でない人に遺言を書かせ、そのあとすぐに、本人に後見人を付ける手続きを取ったのです。そうして本人を被後見人にすることで、医師2名が同席し、かつ、許可を出さない限り、新たな遺言を書くことはできず、成年後見制度利用前に書かせた遺言が有効になるのです。制度の悪用といえます。

このような場合、その遺言により相続の対象から外された人は面白くないと思うでしょう。そして、遺言が書かれた経緯を知ると、「そもそもその遺言は無効である」という裁判を起こすでしょう。その際、本人が遺言を書いた時点で、遺言を書くに足る能力はなかったという診断書等を出さなければなりませんが、遺言を書いた日に遺言を書く能力が無かったことを、本人が亡くなってから証明するのは、正直難しい作業となります。その当時の要介護認定などを出すことはできても、遺言を書く能力があったかどうかという核心に迫ることはできないでしょう。

これに対し、遺言を書かせた側は、そのような抵抗を見越して、本人が遺言を書く当日か、その日付に前後して、「認知症はあるが、遺言を書く能力はあると思う」という診断書を医師から取っておくことがあります。そうなると、特定性があるので、「遺言を書かせたもの勝ち」となることが多いようです。本当にそのようなことがあるのかと疑う人もいるかもしれませんが、実際にあったケースです。

なお、被保佐人や被補助人であれば、医師の同席や許可を必要とせず、有効な遺言を書くことができるとされています。しかし、念のため、医師からの「能力的に大丈夫だと思う」という意見書などを取っておくとよいでしょう。総じて、大切なのは、本人の遺言を書きたいという気持ちであり、遺産をもらいたい人が遺言を書かせるのはいかがなものかと思います。