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2021.12.28 更新

実際に公正証書で任意後見契約を結ぶ人は何歳くらいが多いのでしょうか?
公的な調査はありませんが、公証人の中でも任意後見にとりわけ造詣の深い方によると「83歳」が多いとのこと。老人ホームへ入所する年齢で最も多いのも「83歳」といわれています。「83歳」という年齢はシニア層の一つの節目の年なのかもしれません。

ここで、83歳で任意後見契約を結んだ男性の実話を紹介しましょう。

私は昭和10年(1935年)生まれです。大学を出てそれなりの会社に就職しました。営業畑が多く、主な仕事は接待でした。

結婚には縁がなく、子供もいませんが、長くお付き合いしている女性がいます。私は東京、彼女は神戸に住んでいるので遠距離恋愛ですね。

定年退職し、仲間とゴルフをしたり、趣味の油絵を楽しんできましたが、80歳のとき体調を崩し入院、ベッドの上で先々のことを考えました。

  • 健康面は医者の話を聞きながら食事や運動など自分なりに日々気を付けよう
  • 住まいは自宅が良いけれど、体が動かなくなったら老人ホームに移ろう
  • 施設に入っても家は売らず、甥(弟の一人息子)に管理を頼もう
  • お墓は、両親の墓に入ればいい
  • お葬式は、弟か甥に任せればいい
  • 自宅やお金は甥にあげればいい

ここまではすぐに決まりました。死んでからや要介護になってからのことは比較的簡単だったのです。

ところが、認知症になった自分やその時のお金をどう使うかとか、誰に託すかをイメージするのはとても難しく、イメージできなかったと言ってもよいくらいです。自分は認知症にならない、なりたくないという思いがイメージの邪魔をしていたのかもしれません。

まだ働いている甥に、平日、銀行へ行ってもらったり、施設に来てもらうのは無理だろうと考え、任意後見は神戸に住む彼女に頼むことにしました。遠方でも指示や連絡はできるでしょうし・・・。

彼女に事情を話し、二人で都内の公証役場へ行きました。判断能力が低下してきたらあれこれ頼むと私がお願いし、彼女がわかりましたと公証人の前で誓うわけで、お互い照れ臭くなりました。結婚ではないけれど、オフィシャルな関係になれたことは一つの形式として良かったと思います。

「ボケないでくださいよ。ボケたら私が後見の仕事をすることになるんですから」と帰り道で言われて、彼女の優しさも感じることができました。

そんな彼女でしたが、それから2年もしないうちに旅立ってしまいました。こんなこともあるんですね。相手がいなくなったので任意後見は日の目を見ぬまま終わってしまいましたが、思い出にもなったし任意後見契約をやって良かったと思います。

<追伸>
その後、この方は86歳で他界されました。彼女の後に甥御さんと任意後見契約を結ぶこともなく、遺言だけを書き亡くなられました。

<参考>
任意後見契約を結んだ人が100人いるとして、任後後見契約がスタートする(=認知症になる)のは約6%、つまり100人に94人は、認知症にならずに亡くなるか、まだまだ元気で過ごしていることになります。